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前橋地方裁判所 昭和44年(わ)30号 判決 1969年8月21日

被告人 中村重治郎

大一三・三・二五生 会社員

主文

被告人を禁錮一年に処する。

未決勾留日数中三〇日を右刑に算入する。

本件公訴事実のうち道路交通法違反の点につき公訴を棄却する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は屑鉄商を営み、大型免許を有し大型貨物自動車の運転の業務に従事していたものであるところ、昭和四四年一月三一日午後三時四〇分ころ、大型貨物自動車を運転して高崎市から新潟県燕市に向かい国道十七号線上を進行中、前橋市国領町二丁目一三番八号先の信号機が設置された交差点にさしかかつたのであるが、当時右自動車には鉄屑一四トン余を積載し、降雨中で路面が濡れていたので急激な制動を施すと車輪が滑走し易い状況であつたのであるから、このような場合、自動車運転者としては右交差点の信号機の信号が青色の燈火から黄色の燈火に変わつた場合横断歩道の直前で停止できるようにあらかじめ速度を調節して行進し、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、被告人はこれを怠り、時速約五〇キロメートルで進行を続けた過失により、横断歩道の約二六メートル手前で信号機の信号が黄色に変わるのを認めて急制動をかけたが車輪が滑走して停止できず、横断歩道上に前部がかかつて停止していた片貝尚一(当二八年)運転の普通貨物自動車左後部に自車右前部を衝突させ、その衝撃により同人に対し約五日間の加療を要する胸部、右手打撲傷の傷害を負わせ、さらに自車を斜左前方に暴走させ、横断歩道上を左側から右側に向かい歩行横断中の木村充代(当一五年)、根岸律子(当一六年)、辻恵美子(当二二年)、岡三枝子(当一九年)および目崎千江子(当一五年)に自車前部を衝突させたうえ右木村および根岸を右後輪で轢過し、よつて右木村に対し約六箇月間の入院加療を要する右下肢挫滅創兼開放性骨折(右大腿部切断)、左下肢挫滅創、骨盤骨折等の傷害を、右根岸に対し約六箇月間の入院加療を要する右下肢挫滅創(右大腿部切断)、右肩胛骨骨折の傷害を、右辻に対し全治まで約二箇月間を要する骨盤骨折の傷害を、右岡に対し全治まで約二週間を要する右下腿打撲傷、左膝蓋骨部擦過傷の傷害を、右目崎に対し全治まで約二週間を要する右大腿打撲の傷害をそれぞれ負わせたものである。

(証拠)(略)

(法令の適用)

被告人の判示所為は被害者ごとに刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するところ、右は一個の行為で六個の罪名にふれる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として最も重い木村充代に対する業務上過失傷害罪の刑に従い、所定刑中禁錮刑を選択し、その刑期の範囲内で被告人を禁錮一年に処し、同法二一条により未決勾留日数中三〇日を右刑に算入することとする。

(公訴棄却の理由)

本件公訴事実のうち道路交通法違反の点は、

被告人は、

第一、法定の除外事由がないのに前記日時場所において自動車検査証に記載された最大積載量一一、〇〇〇キログラムを三、三九〇キログラム超える一四、三九〇キログラムの鉄屑を積載して前記車輛を運転し、

第二、法定の除外事由がないのに運行記録計が調整されていないためすべての時刻における瞬間速度とすべての二時刻間における走行距離が自動的に記録できない前記車輛を運転したものである。

というのであり、罰条として第一につき道路交通法五七条一項、一一九条一項三号の二、第二につき同法六三条の三、一項、一二一条一項九号の二、昭和二六年運輸省令六七号四八条の二、二項が掲げられている。

ところで道路交通法一二五条一項、別表によれば右第一、第二の各行為は同法にいう反則行為に当り、また被告人が前同条二項各号のいずれかに該当する者である点については立証がないから被告人は同法にいう反則者に当ると認めざるを得ない。(同法一二五条二項四号に、「反則行為をし、よつて交通事故を起した者」というのは、反則行為と交通事故との間に因果関係の存する場合を指すと解すべきところ、本件交通事故の原因は前認定のとおり、交差点の手前において被告人が速度を落して進行すべき注意義務を怠つた点にあると認められ、前記第二の違反はもとより、第一の違反も本件事故の直接の原因ではないというべきである。)しかも本件が同法一三〇条但書各号に該当しないことも前掲各証拠により明らかである。そして同条本文によれば反則者については、その行なつた反則行為が属する種別に係る反則金の納付の通告を受け、かつ反則金の納付期限までに反則金を納付しなかった場合でなければ公訴を提起することができないのであるが、本件において右の手続を経たとの点については何らの立証がない。そうだとすれば本件公訴の提起は同法一三〇条に違反し無効というべきであるから刑事訴訟法三三八条四号により公訴を棄却することとする。

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